| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-080

里山に生息するノシメトンボの雌の摂食量と卵生産

*岩崎洋樹,渡辺 守(筑波大・生物科学系)

アカネ属の1種であるノシメトンボは、樹林−水田複合生態系を利用する生活史戦略をもっている。彼らは水田で羽化後、林内へ移動して摂食活動に専念し、産卵を行なうときだけ水田を訪れている。しかし、これまで、林内における雌の摂食活動に着目した研究は行なわれず、卵生産に必要な摂食量やその期間は明らかにされていなかった。そこで、雌の日当たり摂食量を脱糞量から推定するとともに、摂食量と卵生産の関係を調べた。

早朝、林内で雌を捕獲し、水のみを与えると、24時間で2.69mg(乾重)の糞を排出した。このとき、消化管の中はほぼ空になっていた。このような雌にヒツジキンバエ(乾重:6.24mg/頭)を0,1,2,3,4頭ずつ与えたところ、翌24時間でそれぞれ0.74,1.60,2.00,2.60,3.09mgの糞を排出した。したがって、雌の日当たり摂食量は、ヒツジキンバエ3.2頭分(乾重:20mg)と計算された。ショウジョウバエ程度の大きさの双翅目の乾重は約1mgなので、雌が1日に食べる小昆虫は20頭を超えると考えられた。

早朝捕獲した雌を直ちに強制産卵させ、保有していた成熟卵をすべて放出させてから、1日だけ餌を与えて飼育すると、4日目には卵成熟が停止し、餌を与えない雌で約220個、ヒツジキンバエを3頭以上与えた雌で約370個となった。ヒツジキンバエ3.2頭分の栄養で、約150個の卵を生産したといえる。産卵のため水田へ飛来する雌は、体内に約500個の成熟卵を保有していたので、産卵を行なった雌が、体内で再び約500個の卵を成熟させるには、3〜4日間、林内で摂食活動を行なう必要があると計算された。これらの結果は、林内に水田の2倍以上の雌が常に存在し、雌は週に1〜2回水田を訪れて産卵を行なうという野外観察を支持している。

日本生態学会