| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-101

開花調節遺伝子の野外における発現パターンの定量解析

相川慎一郎(神戸大・理・生物)

近年、モデル植物を中心に開花や発芽などの生態学的に重要な形質についての遺伝子メカニズムが明らかにされつつある。例えばバーナリゼーションを介したアブラナ科の開花制御の遺伝子ネットワークでは開花抑制遺伝子FLCが中心的な役割を担うことがシロイヌナズナで明らかにされている。FLCは長期の低温により発現量が低下し、FLCの抑制が外れることで開花が促進される。しかし、単純化された実験条件下の環境ではなく、複雑に変動する野外環境に生育する植物がどのように開花を調節しているのかは明らかにされていない。それらを明らかにすることは、開花メカニズムと環境の関係を明らかにする上で重要である。そこで、本研究では、シロイヌナズナ属のハクサンハタザオを対象にFLC発現量の季節変化を野外集団で定量した。まず、シロイヌナズナのFLC配列情報をもとにハクサンハタザオのFLCを同定した。ハクサンハタザオFLCの配列から定量PCR用のプライマーを設計し、野外からの試料によるRNA定量法を確立した。2006年9月より、ハクサンハタザオFLCの発現量を兵庫県内の野外集団の6個体について1週間おきに定量した。12月からFLCの低下が始まり、それは気温が5℃以下であった積算時間が150時間を超えた時期であった。12月の下旬には栽培条件下で5℃の連続低温を6週間与えた場合と発現量がほぼ同レベルに低下した。栽培条件下では連続6週間の低温処理で開花が誘導される。このことは、少なくとも12月下旬までに野外集団の個体はFLCの開花抑制がはずされていることを示している。これは開花期よりも4ヶ月以上前の時期である。さらに野外条件における開花調節と環境変動との関係について議論する。

日本生態学会