| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-120

山梨県西湖における緑藻マリモの個体群構造と生育環境

*若菜勇(阿寒湖畔EMC),新井章吾(株・海藻研),鈴木芳房(株・海洋探査),朴木英治(富山科文セ)

マリモ( Aegagropila linnaei )は環境省のレッドデータブックで絶滅危惧I類に分類される緑藻類の一種で、国内では阿寒湖をはじめとする17湖沼に分布する。このうち山梨県富士五湖の西湖では、1993年に初めてマリモの生育が確認され、翌1994年にかけて湖の全域を対象とした調査を行ったところ、マリモは北部扇状地沖合の水深6〜16mの湖底に局在して群生していることが明らかになった。湖底間隙水の水温ならびに電気伝導度の性状などから、同所では湖底から地下水が湧出していると見られており、マリモの群生をもらす湖底湧水の機能として、特異な水温環境や水質因子の関与、あるいは水の流動による泥の堆積の軽減などが想定されている。しかしながら具体的な事柄は分かっていないため、本研究ではこの端緒として、2002年7月に水深9.5mのマリモ群生地の内部と外側に自記温度計を設置して、湖底間隙水と湖底直上水の水温変動を1年半にわたって観測した。その結果、湖底直上水は両所において4〜16℃の間で季節変動するものの、群生地内の湖底間隙水は年間を通じて10〜11℃に保たれており、また、約18m離れた群生地の外側でも湖底間隙水は8〜12℃の範囲にあり、湖底湧水の影響が及んでいるものと考えられた。一方、群生地内の底質は砂礫、その外側は泥であることに加え、水深の異なる3カ所で定量的にマリモを採取して生育形や藻体密度、付着基質の有無および重量などについて分析したところ、大半は少量の砂礫に付着する着生型のマリモであることが分かった。以上の結果から、湖底湧水は湖底に沈降する泥を移動させて着生基質となる砂礫を暴露する一方、マリモは砂礫を「重り」とすることで流失を免れている可能性が示唆された。

日本生態学会