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一般講演 P3-130

耐塩性ヨシ(Phragmites australis)は旺盛に生育するか?

*西尾孝佳(宇都宮大・雑草セ),田中正之(宇都宮大・雑草セ),一前宣正(宇都宮大・雑草セ),Siegmar W. Breckle (University of Bielefeld, Germany)

温帯域の水辺環境に広く分布するヨシ(Phragmites ausutralis)は,稲作などの作物生産や湿地における希少植物種保護など様々な場面で有害な雑草とされる。一方,ヨシは塩集積域から淡水域まで,幅広い塩環境で生育できる広塩性植物としても知られ,その耐塩性機構について多くの研究がなされている。植物は一般的に,トレード・オフ関係にある競合能力,ストレス耐性,攪乱依存性のいずれかを生息地に応じて最大化すると考えると,多くの耐塩性植物は競合能力や攪乱依存性に劣り,多くの雑草はストレス耐性に劣ると仮定できる。しかし,ヨシの場合,耐塩性植物としても,雑草としても生活史特性を最大化できることから,環境に応じて,より柔軟に競合能力やストレス耐性の程度が変化すると予想される。そこで,本研究では,塩環境に沿ったヨシの生活史特性に関して, (1) ヨシは塩環境傾度に沿って柔軟に生活史特性を調整する, (2) ヨシは耐塩性系統と雑草性系統に分化している,とした仮説の検証を試みた。これらの仮説を検証するために,塩環境に常時曝される干潟個体群と,その干潟と近接し,常時淡水に曝される放棄水田個体群の両方から採取した植物体を用い,温室環境操作実験を行った。実験では塩濃度条件などを操作し,産地の異なる個体間で,各種生育特性を比較した。その結果,淡水産の個体は淡水条件では生育が旺盛だが,塩水条件で急激に生育が低下するのに対して,汽水産の個体は淡水条件では淡水産に比べて生育が劣る一方,塩水条件では生育低下が小さいことなどから,塩環境に応じた生活史特性調整における産地(系統)間差異が示唆された。

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