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一般講演 P3-134

富士山南東斜面におけるコケモモ群落の構造と適応戦略

*玉井朝子,増沢武弘(静岡大・理)

富士山森林限界XXII

ツツジ科の常緑矮性低木であるコケモモは、亜高山帯から高山帯にかけて分布している。日本の高山帯において、コケモモは主にハイマツ林林縁に生育することが知られている。しかし富士山にハイマツは分布しておらず、特に南斜面においてコケモモはカラマツが優占する森林限界から亜高山帯落葉針葉樹林林床に密な群落を形成する。富士山の北斜面ではシラビソからなる亜高山帯常緑針葉樹林林床において光合成による物質生産の制限によりコケモモの分布がほとんどみられないことが報告されている。しかし、富士山南斜面ではコケモモの分布域が常緑針葉樹林にかかることはない。このことから、常緑樹による光制限以外にもコケモモの分布を制限する要因があるのではないかと考えた。

調査は富士山南斜面(標高2400m)のカラマツ林で行った。林縁から林床にかけて設置したトランセクトを1mごとに区切り、各方形区内のコケモモについてシュート数、果実数を計測した。また、各方形区から20シュートを採取し、乾重量、葉面積、茎の長さを計測し、貯蔵物質量を測定した。

調査の結果、調査区のコケモモ群落について次のようなことが示唆された。1.シュート数は裸地からカラマツ林林縁にかけて急激に増加し、その後減少する傾向をみせた。2.林内では相対照度が急激に減少するが、林の奥ではほぼ一定であった。3.土壌栄養・水分は林内では改善されほぼ一定であったため、栄養分による分布制限は考えられない。コケモモの光条件が急激に悪化する要因として、点在するシラビソやヒメノガリヤスによる被陰のほかに、カラマツのリターによるシュートの埋没なども考えられる。このような場合、光合成による物質生産が制限されることが示唆され、それにより次の年の成長や新たなシュートの展開がより困難なものになると考えられる。

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