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一般講演 P3-184

シデムシ科ヒラタシデムシ亜科における飛翔能力、食性、繁殖形質の進化−比較法による関係性の進化の検討−

*池田紘士,加賀谷隆,久保田耕平(東大・院・農),阿部俊夫(森林総研)

演者らのこれまでの研究から,甲虫目シデムシ科ヒラタシデムシ亜科の大半の種は,成虫に飛翔能力が有り,かつ成虫,幼虫ともに脊椎動物の死骸を食物とする腐肉食者か,飛翔能力が無く,かつ土壌無脊椎動物を食物とする肉食者であることが明らかにされている。一般に昆虫における飛翔能力の退化はハビタットの安定性により説明されることが多いが,ヒラタシデムシ亜科では腐肉食から肉食への変化が生じ,それに伴って時空間的予測性の低い希少な資源である脊椎動物の死骸探索の必要が消失したため,飛翔能力が退化したと推測される(仮説1)。飛翔能力の退化は,一般に獲得エネルギーにおける繁殖への投資配分を増加させるが,ヒラタシデムシ亜科でも同様の進化的変化が生じたと考えられる(仮説2)。歩行探索を行う捕食者では,広範囲を探索でき飢餓耐性が強く,処理しうる餌範囲の広い大型幼虫が有利と考えられ,繁殖投資における1卵あたり投資配分は増加する方向に選択圧が働きうる。したがって,飛翔能力の退化と肉食への変化には大卵少産化が伴った可能性がある(仮説3)。本研究ではヒラタシデムシ亜科13属21種の分子系統解析の結果を基に,飛翔能力,食性,繁殖形質の祖先復元及び独立比較を行い,これらの仮説を検討した。

飛翔筋の有無を祖先復元した結果,飛翔筋の退化は2つの異なる系統で1回ずつ生じたと推定され,食性の祖先復元結果を合わせると仮説1は支持された。飛翔筋が無い肉食性の種は,飛翔筋を持つ種より繁殖への投資配分が多く大卵少産の傾向を示した。しかし,祖先復元と独立比較法の結果は,仮説2を支持したが仮説3は支持せず,飛翔筋の退化した系統における大卵少産化は飛翔筋退化と食性変化の前に生じていたと推定された。腐肉食の祖先種における大卵少産化は,食物を巡る競争の激化による可能性がある。

日本生態学会