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一般講演 P3-206

神奈川県丹沢山地におけるササラダニ群集の種多様性とその変化―植生衰退の影響を基軸として―

*尾崎泰哉,辰田秀幸,伊藤雅道(横浜国大院・環情)

神奈川県丹沢山地のブナ天然林域では,シカの密度の増加によって林床植生が衰退し,表層土壌やリターの流出が問題となっている。この中でも最も荒廃が著しい堂平地区において,防鹿柵を設置して,ササラダニ類を調査した例では,設置後3年間で林床植生はある程度回復したがササラダニ類の有意な増加は見られなかった(青木ら 1997)。一方,同様にシカが高密度に生息する大台ヶ原における研究例では,防鹿柵を設置して4年目以降にササラダニ類が有意に増加し,リター量との間に有意な相関が得られた。林床植生の回復に伴う土壌動物群集の回復には,一定の期間を必要とすると考えられる。そこで,林床植生の衰退した堂平地区における植生保護柵(設置8年経過)の内外,及び対照区としてシカの密度が低く林床植生が維持されている菰釣山のササラダニ群集を比較し,丹沢山地における林床植生の衰退がササラダニ群集に与える影響を調査した。ササラダニ類は38科75属170種が出現した。種数・密度は,シカ高密度区が26種・11140頭 m-2,シカ低密度区が93種・47125頭 m-2となり,シカ高密度区がシカ低密度区に比べて密度・種数共に約1/4倍と極めて少なかった。一方,シカ影響除去区である植生保護柵内の種数・密度は72種・32000頭 m-2で,柵外と比較すると柵内の方が密度・種数共に約3倍多かった。ササラダニ類の種と密度を用いて地点間の群集の類似度を求めた結果,柵内とシカ低密度区との類似度が非常に高かった。また,設置して3年目の柵内外では有意差がなかった(青木ら 1997)が,8年目における柵の内外は種数・密度共に有意に違う結果となった。つまりシカ高密度区のササラダニ群集の貧弱さが具体的に示され,ササラダニ群集の多様性の回復に柵設置は一定の効果があることが示された。

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