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一般講演 P3-207

ブナの葉を摂食するギルド毎の被食量の緯度勾配

日浦勉・中村誠宏(北大・苫小牧研究林)

はじめに

生物地理学やマクロエコロジーにおける中心課題の一つは、消費者−餌間の相互作用が地理的に変化するかどうかと、その要因を明らかにすることである。これまで植物の被食率は低緯度地域ほど高いと考えられてきた。しかしこの推論は様々な植物を用い、かつばらばらな方法によって導かれたものである。本研究では、ひとつの植物種を対象に被食率の地理的勾配を明らかにするとともに、様々な産地の植物の被食率を同一条件で比較し、被食率を規定する要因を絞り込んだ。

方法

ブナを対象に、九州から北海道までの22カ所に設置されたリタートラップで採集された葉計24,629枚を用いて、摂食機能群毎(咀嚼、潜葉、ゴール)の被食率を調べた。ゴールについては形態から種同定も行った。また同一条件での比較として、本州中部山地に植栽された15カ所の産地のブナの葉を晩夏に26,424枚採集し、上記と同様に被食率とゴールの種数を調べた。葉の質(LMA、全炭素・窒素、タンニン、フェノール)についても分析を行った。

結果と考察

これまでの推論とは反対に、高緯度で年平均気温が低い地方ほど咀嚼による被食率は高く、統計的にも有意であった。一方、ゴールは低緯度で年平均気温が高い地方ほど密度、種数ともに高く統計的にも有意で、潜葉には地理的勾配は見られなかった。

同一条件の植栽地では、統計的には有意ではなかったが、高緯度地方に産地を持つブナほど咀嚼による被食率は高い傾向があった。ゴールは本州中部に産地を持つブナで他より高い傾向があった。潜葉による被食は、高緯度地方に産地を持つブナほど少なく統計的にも有意であったが、植栽地と同一産地のブナで飛び抜けて高かった。

このようにブナの被食率の地理的勾配は摂食機能群毎に異なったが、これには遺伝的に固定されたブナの葉の形質の違いと、各摂食機能群の選好性の強弱が強い影響を与えていると考えられる。

日本生態学会