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一般講演 P3-209

好蟻性昆虫アリヅカコオロギ属の分子系統〜寄主アリ特異性とハビタット特異性の進化

*小松 貴(信州大・理),丸山 宗利(フィールド自然史博),市野 隆雄(信州大・理)

アリヅカコオロギ属(Myrmecophilus)はアリの巣内で生活するコオロギ類で、アリが仲間を識別するために使う体表成分(CHC)を自分の身に纏うことで、アリの攻撃を避け餌を奪う(Akino 2002)。国内では従来3種が知られていたが、近年10種に分類され、種毎に特定分類群のアリの巣で見つかる事が指摘された(Maruyama 2004)。しかしアリヅカコオロギ種間の系統関係は未知であり、寄主アリ特異性進化の過程も不明である。

本研究では、日本国内に加え、マレー半島で採集されたサンプル(合計10種179個体)を用い、ミトコンドリアDNAの16SリボソームRNA遺伝子により分子系統解析を行うとともに、系統樹上に寄主アリ種をプロットすることで、寄主及びハビタット特異性進化の過程を調べた。

その結果、系統樹では10系統群が認められた。これらの系統の中には、寄主範囲の広いジェネラリスト系統と、特定アリ種のみ寄主とするスペシャリスト系統の存在が認められた。特に、マレー半島産のジェネラリスト系統では、日本産のジェネラリスト系統に比べ多岐にわたる分類群のアリの巣から採集される傾向があった。さらに、系統毎にハビタットの光環境に対する選好性も異なっていた。これらの寄主アリ種およびハビタットに対する先行性を系統樹上にプロットした結果について考察した。

なお、一つの系統においては地域によってハビタット選好性が変化するという現象が認められた。すなわち、この系統は、関東以南の標高1000m以下の地域では森林環境を選好するのに対し、関東以南の標高1000m以上の地域および秋田県以北の地域では、草原等の開けた環境に進出していた。

日本生態学会