| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-225

藻類多様性は藻食者に対する二酸化炭素の化学量効果を緩和させる

*占部城太郎・和氣尚子(東北大学・生命科学)

陸上と異なり、湖沼の二酸化炭素分圧は10〜10000ppmvと大きく変動する。大気二酸化炭素分圧の上昇は、将来湖沼の二酸化炭素分圧を、直接・間接的にさらに上昇させる可能性がある。このような二酸化炭素分圧上昇に対する藻類群集とそれを餌とする藻食者の応答を調べるため、異なる分類群の藻類種を用い、一般的な二酸化炭素分圧(360ppmv:対象区)と高い分圧下(2000ppmv:操作区)でリン供給量を制限した培養実験を行った。藻類を単独培養した場合、操作区では緑藻種、珪藻種ともに成長速度が高くなり、C:P比(炭素:リン比)は増加した。また、先行研究による化学量論の予想と一致し (Urabe et al. 2003:Global Change Biology, 9:818-825)、これら藻類種を餌としたミジンコ(Daphnia pulicaria)の成長速度は低下した。炭酸水素イオンを炭素源として効率よく利用するラン藻種の場合、その成長速度は二酸化炭素分圧に影響されず、対照区、操作区ともに、ミジンコの餌としての質は低かった。一方、異なる分類群の藻類種を混合培養した場合、藻類種の組み合わせにより優占種は異なっていたが、いずれの場合も二酸化炭素分圧上昇は優占種の優占度合いを変化させた。しかし、単独培養の結果と異なり、これら実験区の混合培養藻類を餌とした場合、藻類全体のC:P比増加にもかかわらず、ミジンコの成長速度低下は見られなかった。餌のC:P比増加にもかかわらず、なぜミジンコの成長速度が低下しなかったのか、その栄養学的な詳細は明らかでない。しかし、本研究結果は、二酸化炭素分圧上昇にともなう藻食者に対する個々の藻類種の餌としての質的低下は、多様な藻類の存在によって補われることを示している。

日本生態学会