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公募シンポジウム講演 S03-2

マレーシア・サラワク州の人と生態系の100年史

*市川昌広(地球研)・酒井章子(京大生態研)

マレーシア・サラワク州において、人間活動による森林への影響がより大きくなったここ100年ほどの森林や生態系の変化と、その要因について3期に分け説明する。

第1期は、1900年ごろから1950年代で森林がおもに輸出用の林産物(野生ゴム、籐、樹脂、沈香、ツバメの巣など)の採集のために利用された時期である。採集は先住民がおこない、流通は華人が担った。先住民の村々では、焼畑がさかんで、原生林での開拓が一部でみられた。サラワク全般では、広域の森林から特定の林産物が抜き出される森林利用であったため生態系への影響は比較的小さかった。第2期は、1960年代から1980年代の商業伐採が盛んになった時期である。輸出のためにフタバガキの樹木が広範囲で大量に抜き伐られた。政府が州有林の囲い込みを強化し、伐採権を華人系伐採企業に交付した。現場では先住民が労働者として働いた。森林政策はNGOの伐採反対運動に影響を受けた。先住民の村の森林利用も周囲の伐採の影響を受け変化した。この時期、広域の原生林の生態系が択伐による影響を大きく受けた。第3期は、第2期とやや重なるが、1980年代から現在までのオイルパームプランテーションが急速に拡大している時期である。商業伐採後の森林が皆伐され、プランテーションに置き換えられている。開発許可は政府が出しており、華人系企業が開発している。現場で働いているのは、インドネシアからの出稼ぎ労働者が多い。

第1期から3期を通じ、森林生態系の劣化・消失の過程では、政府、華人企業、先住民、NGOなどがかかわっていた。彼らがどのような関係にあり、生態系や生態系と人の関わりにどのような影響を与えてきたのか議論する。また、今後、人文系研究者と生態学者がどのように協力して森林の維持や再生に寄与することができるのか考えたい。

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