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公募シンポジウム講演 S04-2

水生昆虫の生息状況からみた細見谷の特徴とその貴重性

井上 栄壮(信州大・繊維)

西中国山地国定公園内の細見谷渓畔林をめぐっては、2002年の本学会第49回大会においていわゆる「細見谷要望書」が採択され、本地域の保全と大規模林道建設計画の中止を求めてゆくこととなった。その後、アフターケア委員による渓畔林地域の動植物調査が進められ、水生昆虫類については、竹門康弘氏の指揮のもと各分類群の専門家が協力し、生息状況を調査してきた。本講演では、カゲロウ目・カワゲラ目・トビケラ目の調査結果を総括させていただくとともに、演者が調査したユスリカ科の結果について報告する。

渓畔林内を貫流する細見谷川は、渓畔林植生の構造と種多様性に加え、瀬・淵、岩場、たまり、細流など、水生昆虫類の生息場所の多様性が維持された、自然度の高い景観を呈している。特に、澪筋に近接した渓畔林内の随所に湿地帯が形成されている点は、西日本では類を見ず特筆に価する。こうした生息場所の高い多様性が細見谷の特徴のひとつであり、このことが流域で確認された水生昆虫類の高い種多様性を支えていると考えられる。もうひとつの特徴は特異な種構成である。ユスリカ科では、とりわけ湿地帯でのみ生息が確認された種の多くが、未記載種または採集記録の少ない種であった。例えば、最も採集個体数の多かったハモンユスリカ属の1種Polypedilum caudoculaは、1991年の新種記載を含めても、演者の知る限り3例目の記録である。また、細見谷川の本川においても、モンユスリカ亜科の1種Larsia sp.など、未記載種の可能性のある種の生息が確認された。

渓畔林地域の湿地帯や細流は林道改修工事に対して特に脆弱であり、これらの生息場所に強く依存する種もまた脆弱と考えられる。本川についても、流入土砂の増加、伐採による水面カバーの減少など、生息環境の破壊が懸念される。水生昆虫類保全の観点からも、細見谷林道は現状を維持すべきである。

日本生態学会