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公募シンポジウム講演 S04-3

渓畔林の動態と共存機構――渓畔域をどう管理すればよいのか

崎尾 均(埼玉県農林総合研究センター 森林・緑化研究所)

河川の上流域に分布する渓畔林は様々な生態的機能を持つとともに周辺の森林と比較して生物多様性が高く貴重な生態系である。日射遮断による水温上昇の抑制、落下昆虫・リター・倒流木の供給、水質の保全など魚類の生息環境を形成するとともに、土砂流失や山腹崩壊の抑止などの効果も発揮する。また、渓流の多様な攪乱によって形成された微地形や微環境は生物多様性を高め、希少生物の生息場所を提供している。これらの渓畔林の更新動態や樹木の共存は河川攪乱による様々な立地形成と関係していることが明らかとなってきた。樹木は発芽、実生、稚樹をとおして林冠木に到る生活史の中でお互いに異なる生存戦略をとって共存している。この共存には砂礫の移動、土石流や山腹崩壊を含めた渓流域での攪乱やそれに伴う物質移動が重要な役割を果たしている。しかし、これらの貴重な渓畔林は大規模な森林伐採によって失われるとともに、ダム建設のために渓流生態系そのものが破壊されてきた。また、渓流沿いに施工された林道が渓流生態系に与えてきた影響は計り知れない。特に、西日本の森林は歴史的にも人為の影響を強く受けており、東日本と比較して人工林率も高く、成熟した渓畔林の残されている場所は少ない。その中で広島県の細見谷渓畔林は渓流の動態そのものが保全されており、生物多様性の視点からも貴重な生態系と考えられている。現在、流域管理の視点から上流域の渓畔林を復元・再生しようとする試みが全国的に行われているが、渓畔林を復元する技術そのものが開発されているわけではない。自然遷移に任せても成熟した渓畔林に戻ることは予想されるが、遺伝資源が流域から失われている場合も多く、数百年オーダーの期間を要することが考えられる。その意味でも、現在残されている渓畔林をできるだけ自然のまま保存することが流域管理の上でも重要である。

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