| 要旨トップ | ESJ54 シンポ等一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


公募シンポジウム講演 S05-1

シンポの背景−マレーシア熱帯林にみる森林の衰退現象について

奥田敏統(広島大学)

近年,熱帯地域の森林において,大規模で突発的な大風が直接的な原因とみられる森林の崩壊現象が顕著になってきている。アマゾン流域の熱帯雨林では,エルニーニョによる乾燥化などによって森林崩壊(立ち枯れ,倒木)が深刻化しているという。演者らが観測を続けているマレーシア半島部のパソ保護林で空中写真やレーザープロファイラーを用いて林冠高の経年変化の分析を行ったところ(2.5m間隔で計測),1997年から2003年までの間に林冠高>50mのポイントが約40%減少していることが分かった。また,同保護林の中では,幅,長さ共に数十〜数百メートルにわたる大規模な林冠ギャップが発生しているのを頻繁に見かけるようになった。これらのギャップでは,多くの林冠木や突出木が幹の中途から折れており,明らかに単一木の根返りや共倒れによるものではないと考えられる。

熱帯雨林の生き物は年中一定の温度,湿度環境で生活し,その繁殖にはほんの僅かな環境変化によるシグナルが重要な意味を持つ。また,森林の林冠構造などが崩壊することで,生き物のニッチが喪失し,多様性への影響も懸念される。熱帯林は森林伐採により,過去30年間で著しく減少したが,それに追い打ちを掛けるように,気候変動や異常気象などによって少なからず影響を受けるとすれば,熱帯林生態系のみならず,様々な形で地域社会や地球環境に影響が出ると考えられる。

こうした状況を踏まえ,今回のシンポジウムでは,熱帯林や地球環境変動の長期観測を行っている研究者を集め,熱帯の森林を取り巻く気候変動などによって熱帯地域の森林が影響を受けるのか,また,森林の更新プロセスやフェノロジー,動植物の相互作用にどのような影響となって現れてくるのかについて,これまでの知見を紹介し合い,今後の研究展開や対処方法も含めた総合的な議論を行う予定である。

日本生態学会