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公募シンポジウム講演 S05-7

乾燥があたえる植食性昆虫個体群への影響

岸本圭子 (京都大学)

東南アジア熱帯の中心部にひろがる熱帯雨林では、1年を周期とする気候の季節的な変動が非常に弱く、年次を超えた"超年次変動"が不規則な間隔で生じることが知られている。そうした気象の超年次変動をひきおこす要因のひとつがエルニーニョである。エルニーニョは、およそ3-6年の不規則な間隔で発生し、東南アジアの非季節性熱帯の気候に強い乾燥をもたらすことが観測されている。

1997から98年にかけて、ボルネオはここ数十年で最大規模の乾燥にみまわれた。乾燥は数カ月にわたって続き、その間、常緑の多くの樹木が大量に葉を落とした。雨量の回復とともに乾燥が終結すると、多くの樹木が一斉に新葉の展開を始め、乾燥によって植物フェノロジーの急激な変化がもたらされることが観測された。こうした変化は、植食性昆虫の利用可能な餌資源量を大きく左右すると予測される。

演者らは、ボルネオ島熱帯原生林において植食性昆虫の定期的な観察と採集をおこない、1998年の乾燥前後に植食性昆虫の個体数がどのように変化したかを調査した。その結果、鱗翅目幼虫・成虫量の増加と、乾燥後の新葉の急激な増加との間に強い相関がみられた。また、甲虫目ハムシ類の個々の種の個体群には、乾燥後著しい増加を示すものと減少を示すものの両方があり、乾燥による反応が種ごとに異なることがわかった。乾燥前は個体数が多かったにもかかわらず、乾燥後個体数が極端に減少し、その後出現を確認するのが困難な種もいくつかみられた。このように、予測性の低い間隔と規模で生じるエルニーニョに連動した乾燥が植食性昆虫個体群の個体数変動に大きな影響をもたらすことが示され、乾燥が種の置換・優占種の交替といった群集構造の変化をもたらす重要な要因になりうることが示唆された。

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