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公募シンポジウム講演 S08-3

山地の斜面発達史を考慮した植生構造研究

高岡貞夫(専修大・文)

山地の地形と関連付けられた植生構造やその動態は,比較的短い期間でも地形と植生の変化が観察されやすい谷の源頭部や谷底部で研究が進展し,知見が充実してきたが,さまざまな成因・形成年代の地形が混在する山腹斜面においては,斜面発達史を考慮しながら長期的な観点も含めて地形と植生の関係の検討することが必要であろう.例えば数千年,数万年といった長期にわたって大きく更新されずに残存している地形もあるから,そのような古い地形とその構成物が,現在の立地環境や攪乱レジームの場所による違いを生じさせて植生分布に影響している場合があるとも考えられる.このような影響は高山植生域でいくつかの検討がなされてきたが,亜高山帯や山地帯においても,検討すべき課題があるかもしれない.そのような問題意識に基づく試みの一つとして,山地帯と亜高山帯の移行部に位置する長野県梓川上流域に見られるブナ林およびブナ孤立木の分布を地形・地質条件との関係から検討した.空中写真判読と現地調査によって分布が把握されたブナは,分布上限に近い標高1700m以上では,山腹斜面の遷急線(開析前線)より下方に位置する崩壊斜面,崖錐,沖積錐に偏在していた.また概ね1700m以下の標高域では,崩壊斜面や崖錐にブナの優占する林分が成立する場所が存在した.遷急線より上方には化石周氷河斜面の一部と考えられる,岩塊が覆う斜面が観察される場所があるが,遷急線をはさんで常にそのような違いが観察されるわけではなかった.本地域の山腹斜面上のブナの分布域が,主として,後氷期あるいはそれ以前から開析が進行してきた斜面に位置することには,斜面崩壊にともなう土壌条件や光環境の改変が関わっていると予想される.地形の起伏・傾斜や基盤岩の地質の違いによって斜面の開析の進み方が異なり,同じ標高域でもブナの分布に違いが認められた.

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