| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-02

木曽川感潮域における絶滅危惧植物タコノアシの生存にかかる環境要因

*比嘉基紀,師井茂倫,大野啓一(横国大・院・環情)

木曽川感潮域の自然堤防帯からデルタ帯への移行帯において、絶滅危惧植物タコノアシPenthorum chinense Pursh(ユキノシタ科)の個体群維持に必要な環境要因を解明することを目的に調査を行った。はじめに、タコノアシを含む草本植物の全体の分布特性について検討を行った。これまでタコノアシは、河川では自然攪乱にさらされやすい澪筋沿いの泥湿地に出現することが報告されている。しかし、本調査地は、河床勾配が緩やかなことに加え、様々な人為的インパクトの影響で河床が全体的に安定傾向にあるため、比高が低く明るい澪筋沿いの立地ではヨシやマコモ、ミズガヤツリの優占する湿生草本群落が成立していた。タコノアシは、比高が高い立地に成立するアカメヤナギ群落の林床で多くの個体が確認された。次に、タコノアシの成長と開花に影響を及ぼす環境要因を、最尤推定法の変数選択で検討した結果、すべての統計モデルで堆積物硬度が選択され、標準化推定値は最も大きかった。表層堆積物硬度が2.5 kg/cm2以上の立地では、多くの個体が発生したものの、1個体の開花も認められなかった。個体の地上部乾燥重量と枝数は、表層堆積物が軟らかく、上層の明るい環境で増加する傾向を示した。本種の開花量は個体サイズに依存して増加するので、開花個体数と花梗数も同様立地で増加する傾向にあった。タコノアシの個体群維持に適したこのような環境は比高の低い立地にも存在するものの、そこでは出現個体数が少なかった。以上の結果より、木曽川感潮域においてタコノアシの分布に影響を及ぼす最大の要因は、湿生草本群落優占種との競争であると推察された。また、本種の成長と開花には表層堆積物の硬度が強く影響しており、次いで光環境の影響が大きいことが示唆された。

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