| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) A2-09

Translocation(移殖)によるシマフクロウのつがい形成

*早矢仕 有子, 杉野 諒輔, 西森 智彦(札幌大・法), 山本 純郎(根室市)

シマフクロウ(Ketupa blakistoni)は我が国では北海道にのみ生息する世界最大級のフクロウである。20世紀前半までは函館近郊や札幌を含む広域に生息していたことが標本資料等より明らかになっているが、生息環境の消失に伴い1950年代前後に道南から、70年代には道北から、80年代に石狩平野から姿を消したと推察されている(早矢仕 1999)。現在では東部を中心に約35つがいが生息しているにすぎず、我が国で最も絶滅が危惧される鳥類種のひとつである。20年にわたって人為給餌と巣箱設置を中心とした国の保護増殖事業が継続されており、繁殖つがいの保護とヒナの生産に関して成果をあげてきたが、生息環境保全の立ち後れにより、分布域の復元には至っていない。

2006年8月、北海道北部天塩川流域にメスのシマフクロウが単独で定着していることが確認された。道北での生息確認は約40年ぶりのことであり、個体識別のために装着されている足環より、直線距離で97km離れた大雪山系において1987年に生まれた個体であることも明らかになった。発見された場所が、かつてシマフクロウの自然分布域内であったこと、他の生息地から約100km離れ孤立しているためオスの移入が期待薄なことから、人為的にオス個体を導入することで道北におけるシマフクロウ繁殖地復元を目指すことが国の保護事業として決定された。そこで2007年10月、飼育下にあった1997年生まれのオス個体をメス生息地内に設置したケージへ導入し、半月間の馴化を経て10月25日、放鳥にいたった。オスは12月末日までの間、放鳥地から0.6km以上離れることなく定着しており、雌雄の間で鳴き交わし(duet)行動が観察されていること、お互いのねぐら位置が近く共に採餌に訪れることなどから、今後の繁殖成功が期待されている。 

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