| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) B1-08

林床低木種の光環境に応じた樹冠形成の可塑性発現パターン

*河村耕史(森林総研・関西), 武田博清(京大・農)

林床植物の成長は、光資源によって強い影響を受けている。林床の光環境は時空間的に変異性が高いため、固着性である植物とって、光環境に対応した形態的可塑性は、生存上重要な特性である。木本の林床植物の光環境に対応した形態的可塑性について、主に高木種の幼樹を対象に多くの研究がなされたが、低木種を扱った研究はほとんどない。低木種の多くは、複数の地上幹によって個体を構成する「複幹構造」を形成する。複幹構造は単幹であることが多い高木種の幼樹とは大きく異なる構造であり、光環境に対応した形態的可塑性の発現様式もまた、単幹構造を持つ幼樹とは大きく異なることが予測される。本研究は、複幹低木種ウスノキを材料とし、個体>地上幹>葉レベルで光環境に対応した形態と成長様式の変化を調査した。

個体レベルでは、林冠開空率5から28%の増加に対して、新しい地上幹の発生頻度が3倍に増加した。また、明るい環境ほどサイズの大きな地上幹が生産された。対照的に、個々の地上幹レベルでは、LAR(単位地上部重量あたりの総葉面積比)やRGR(地上部重量の相対成長速度)に、光環境に対する有意な変化が認められなかった。ただし、個葉レベルで見ると、SLA(単位葉重量あたりの葉面積)が、光環境の増加に対応して強く減少していた。

これらの結果から、ウスノキでは、個体>地上幹>葉レベルによって、光環境に対応した形態可塑性の大きさが異なること、そして、光環境の変化に対する反応は、地上幹の形態や成長速度を変える方法ではなく、新しい幹の生産頻度やサイズを変える方法で起こることが示唆された。これは、複幹構造の中に「可塑性のヒエラルキー」があることを示唆している。複幹構造を持つ低木種では、このような構造レベルによる可塑性発現様式の変化に留意した研究が必要である。

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