| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) B1-15

胚珠の余剰生産と選択的中絶の進化条件:受粉時間のずれの影響の解析

酒井聡樹(東北大・生命科学)

花内における胚珠の余剰生産(種子にならない胚珠の存在)は、花の余剰生産(果実にならない花の存在)同様に一般的な現象である。受粉花粉も資源も十分な状態でも、種子/胚珠の比が 1 よりもかなり低い植物は多い。この現象の進化を説明する有力仮説に「選択的中絶仮説」がある。これは、胚珠を多めに作っておき、遺伝的質の低い花粉を受精したものを選択的に中絶するという仮説である。花粉管の伸長速度が遅い花粉ほど遺伝的質が低いため、遅く受精した胚珠を選択的に中絶していると考えられている。しかし、この仮説が本当に働くのかどうかの理論的解析は不十分である。本研究では、受粉と選択条件を三つの場合に分け、それぞれにおいて、この仮説が働くかどうかを理論的に検討した。

1)一つの花内の全胚珠が受精するためには一回の訪花で十分である。花粉選択は個々の花単位で行われる(花粉にとっては、同じ花に受粉した花粉が競争相手)。

2) 一つの花内の全胚珠が受精するためには複数回の訪花が必要である(受精時間に胚珠間でずれが生じる)。花粉選択は個々の花単位で行われる。

3) 花粉選択は複数の花単位で行われる(花粉にとっては、他の花に受粉した花粉も競争相手)。一回の訪花で全胚珠が受精するとする。

解析の結果、1) の場合には余剰胚珠は進化せず、2) の場合には、余剰胚珠は進化しうるものの、花粉管の伸長速度に基づいた選択的中絶は有利とならないことがわかった。むしろ、ランダムな中絶の方が有利である。3) の場合には、余剰胚珠と、花粉管の伸長速度に基づいた選択的中絶が進化しうるものの、その進化条件は狭い。以上のことから、「選択的中絶仮説」が働く条件は、これまで考えられていたよりも狭いと結論した。

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