| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-14

異なる立地に生息したフネミノキの個体群動態

*山田俊弘(広大院総合科学)ズイデマ ピーター(ユトレヒト大)

東南アジアの熱帯雨林に生息するボルネオフネミノキは、砂質土壌の尾根に偏って分布する。植物の分布が、ある生息地に偏ることは、昔からよく知られていることだが、その成因については、二つの異なる考えから説明されてきた。ひとつは、植物は自分が好む生息場所ニッチでは個体密度が上がり、その生息場所ニッチの縁にむかって密度が減少し、ニッチの外では分布できなくなるから、という考え方である。そしてもう一つは、種子散布制限という生態学的に中立な要因により、植物は集中して分布するものであり、この集中斑がたまたま、ある生息場所に重なっているだけである、という考えである。当然ながら、前者は群落を平衡状態に、後者は非平衡状態へと導くだろう。いったいどちらの考え方が正しいのだろう?

私たちは、ランビル国立公園に設置された52ha調査区を用いて、この種の分布と8つの生息地カテゴリーの関係を、トーラスランダマイゼーション法を用いて解析した。そしてこの種にとっての“ホームの生息地”、“中立な生息地”、“アウェイの生息地”を決定した。本発表では、この種における、ホーム、中立、アウェイの生息地での個体群動態を比較した結果を紹介する。もし、本種の生息地の偏りにとって、前者の仮説が当てはまるのならば、個体群増加速度(λ)は、ホーム、中立、アウェイの生息地で異ならず、かつ平衡状態を示す1.0から外れないだろう。逆に後者が当てはまるのならば、個体群増加速度は生息地間で異なり、1.0から外れるだろう。どちらの予想が当てはまるのか?がこの発表の主眼である。

この研究は、熱帯樹木における、個体群動態の生息地間の比較を行う、おそらく世界で初めての試みであろう。

日本生態学会