| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-09

アサギマダラの移動調査における問題点の検討

藤井 恒(日本チョウ類保全協会・京都学園大学)

標識・放逐再捕獲法を用いた調査によって、アサギマダラ Parantica sita (タテハチョウ科、チョウ目)が毎年、最長で2500km以上の長距離の渡りをすることが明らかになった。この調査には、日本、台湾、韓国の研究者(大半はアマチュア)も参加しているが、全国各地で、一般の方々(子供も含む)が調査に協力して下さっていることが、非常に重要である。しかし、参加者の増加に伴い、以下のような問題点も出てきた。

(1)標識の方法:調査が始まった当初は、調査そのものがあまり知られておらず、参加者も少なかったため、長距離移動が確認されることは、ほとんどなかった。そのため、少しでも発見してもらいやすいように、翅に目立つマークを書くことが多かった。しかし、目立つマークをつけることによる弊害(生存率の低下など)も考えられる。

(2)調査地の選定:アサギマダラが多く集まる特定に調査地に、調査の参加者が集中しやすい。人数があまり多くない時は、定点でのデータが増えるので、むしろ好ましいことだと考えていたが、最近は人数が多くなりすぎて、標識済みの個体が何度も再捕獲されるケースも増えている。何度も捕獲すると、チョウの生存率などに影響を与える可能性が高くなると考えられる。

(3)チョウを誘引するための植物の植栽:アサギマダラの成虫はヒヨドリバナ類など、特定の花に誘引される。そこで、アサギマダラを呼び寄せるために、フジバカマ(外来種を含む)やスイゼンジナなどを植栽し、やってきたアサギマダラを捕獲し、標識・放蝶することが以前から行われている。しかし、このような植物を大量に植栽してアサギマダラを誘引することによって、アサギマダラの本来の行動を変えてしまう可能性がある。また、外来種(国内外来種を含む)を大量に植栽することによって、在来種に悪影響を与えてしまう可能性もあると考えられる。

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