| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-11

固着性海洋生物における体サイズ依存の資源分配と性表現

*山口幸(奈良女大院・人間文化),遊佐陽一(奈良女大・理),高橋智(奈良女大院・人間文化)

フジツボ類や寄生性の二枚貝といった固着性海洋生物には、様々な性表現が見られる。例えば、同時的雌雄同体性、雄性先熟的雌雄同体、雌雄同体と雄、雌と雄などである。固着性生物の性表現を決定する大きな要因として、繁殖集団サイズが示唆されている。また性表現の決定には、個体の資源分配が影響すると考えられる。繁殖集団には体サイズ変異があるのが一般的で、各個体の資源分配は体サイズに依存する。そこで、体サイズを連続変数として扱った資源分配モデルを作成した。このモデルでは、体サイズにより交配範囲が変化すること、繁殖集団サイズを所与ではなく、最適戦略の結果として求めることが特徴である。資源分配の仕方は、精子生産・卵生産そして成長の3つを考える。結果の一例として、死亡率の影響を述べる。死亡率が高い場合は、体サイズが小さいうちから、成長だけでなく、精子生産にも資源を分配する。体サイズの増加につれて、精子生産への資源分配割合が増えていく。成長が止まった後(その時の体サイズを臨界サイズとよぶ)は、精子生産よりも卵生産に偏った資源分配となる。この時の性表現は、雄性先熟的雌雄同体とみなすことができる。また高死亡率のために、繁殖集団サイズが小さくなる。一方、死亡率が低い場合、体サイズが小さいうちは、資源を全て成長に投資する。成長が止まる臨界サイズは、死亡率が高い場合に比べると、大きくなる。臨界サイズ到達後は、精子生産と卵生産への資源分配は、ほぼ1:1になる。この時の性表現は同時的雌雄同体性とみなすことができる。また低死亡率により、個体は死ににくいので、繁殖集団サイズは大きくなる。実際に、同時的雌雄同体性の種では、繁殖集団サイズが比較的大きくなりやすい。本発表では、その他の性表現と繁殖集団サイズについても議論する予定である。

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