| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F1-11

子育て中に日本海から太平洋へ通う海鳥オオミズナギドリ

*岡 奈理子(山階鳥類研究所), 藤永 彩(東京農大), 山本麻希(長岡技大), 白井正樹(長岡技大)

外洋性鳥類は、子育て中、繁殖地から遠く離れた海域へ回遊することが一部の種で知られている。太平洋の伊豆諸島で繁殖するオオミズナギドリは、親が片道1,200キロを飛んで北海道東南沖の親潮フロント海域で採食し、1回の採食トリップで約3,000キロを回遊する。この遠距離回遊は、遠い採食場まで往復する飛翔コストの増大、長い留守で子への給餌と子を庇護する機会の喪失も伴うが、親が遠距離回遊で得る利益は、繁殖地周辺の暖流域での採食と、子への給餌活動で低下する栄養状態からの回復にあるとみられる。同じ太平洋の三陸沿岸繁殖集団も北海道東南沖の親潮フロント海域で採食する。

本研究は太平洋のような顕著な混合域がない日本海沿岸で繁殖するオオミズナギドリの子育て中の採食行動圏を明らかにするために、新潟県の粟島で子育てをする親5羽に2007年8月末、衛星対応発信機を装着し、9月下旬までの約3週間、洋上行動圏を追跡した。

親5羽はいずれも陸棚斜面で行動し、繁殖地の周辺海域に滞在し続けた1羽を除き、島以北へ索餌回遊した。うち2羽は日本海の対馬暖流域に留まり、最北では繁殖地から約500キロ北の北海道渡島半島沖の奥尻島周辺まで索餌回遊した。残りの2羽は津軽海峡を抜けて太平洋へ出て、北海道南部沖から下北半島沖にかけての混合域と、北海道南東沖の親潮フロント海域へも定期的に回遊した。最も遠い釧路沿岸は繁殖地から800キロ離れた海域であった。これらの海域は、太平洋側の繁殖集団が重点的に採食回遊する海域にあたった。

このように、新潟県で子育てする親による太平洋混合、親潮フロント海域への定期的な回遊行動は、日本海のオオミズナギドリの一定割合が、北西太平洋の高い海洋生産性に依存して繁殖活動を行っていることを示唆する。

日本生態学会