| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-06

mtDNA変異からみたコノハクラゲの集団構造解析

小林亜玲(京大・院・理),五箇公一(環境研),深見裕伸(京大・瀬戸臨海),久保田信(京大・瀬戸臨海)

コノハクラゲEutima japonica Uchidaは、側所分布する4つの形態多型を持っており、ポリプ世代では、ムラサキイガイMytilus galloprovincialis Lamarckを主とした二枚貝の外套腔で付着生活を送る独特な分類群である。我が国における本種の地理的分布は、1977年から1998年において、主に九州から北海道南部の太平洋側および瀬戸内海で確認されており、日本海沿岸では出現がみられなかった(Kubota, 1992, 2003; 久保田, 1999; 足立ら, 2003; Kubota et al., 2003;久保田ら, 2005)。しかし近年、山口県から新潟県にかけての比較的広い日本海沿岸域で本種の分布が確認されるようになり、現在では対馬および本州南部の日本海側でも定着していると推察される(小林ら, 2004, 2007)。この分布拡大は、近年の日本海南部域におけるレジームシフトの影響によって、冬の海水温が上昇し、壱岐・対馬から対馬海流に乗って漂着した個体群が、越冬可能になったために起こったと推測される。

本種の分布拡大経路の解明は、環境変遷に伴う他種プランクトンの将来的な分布拡大を予測するうえでの有効なデータとなると我々は考えている。本研究では、コノハクラゲの分布拡大がどのような環境変遷および地史に伴って起きてきたかを明らかにするために、地理分布情報およびmtDNA遺伝子による個体群を構造解析により、地理的分化のプロセスを辿るとともに、分布拡大の起源を探ることを目的とした。さらに、得られた結果をもとに、沿岸海洋生物の進化的重要単位(ESU)設定の意義について考察した。

日本生態学会