| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-05

相模湖・津久井湖の藍藻類発生の数理モデル解析

*雨宮隆(横国大・環境情報),芹沢浩(横国大・環境情報),柴田賢一(横国大・環境情報),伊藤公紀(横国大・環境情報)

神奈川の水源である相模湖・津久井湖では,富栄養化が進み毎年夏期を中心に有害藍藻類(アオコ)が繁殖している.アオコの特徴は,単細胞の藍藻類が数多く集まり群体を形成し,さらに,それらが集積して厚さ数cmにおよぶスカムを湖水表面に形成することである.県の調査によれば津久井湖では1985年から1994年にかけては,藍藻類が異常増殖(数十万細胞/mL)する年と,増殖が押さえられる(1万細胞/mL程度)年が不規則に観測されている.また,1995年以降は藍藻類の増殖が比較的抑制されている(数万細胞/mL以下).この原因の一つとして,1993年から行なわれたエアレーションの効果が考えられている.エアレーションとは湖水を鉛直方向に循環させるもので,特に夏期においては,湖水表層の水温を下げる効果や,表層の藍藻類を深層に送り込むことで光合成効率を下げる効果などが挙げられている.つまり,藍藻類の成長率を減少させると考えられる.相模湖においても藍藻類の発生状況は類似している.

本研究では,藍藻類が群体を形成するメカニズムを考慮した数理モデルの安定性解析を行い,相模湖・津久井湖で過去20数年間におよび観測されてきた藍藻類の発生状況について検討を行なった.数理モデルは,単細胞の藍藻,群体状の藍藻,藍藻の捕食者からなる3変数モデルであり,捕食者数の増加に応じて単細胞の藍藻が群体状の藍藻を形成するメカニズムとなっている.藍藻類が群体を形成する理由は今のところ明らかにされていないが,捕食者から身を守るための防御(表現型可塑性)と考えられている.藍藻の成長率を分岐パラメータとして解析すると数理モデルに双安定性や振動解が得られた.エアレーションの効果と藍藻の成長率の関係性を踏まえ,エアレーション導入前後の藍藻類の発生状況の説明を試みた.

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