| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-13

八甲田山における花粉の散布・堆積のシミュレーションモデルを用いた定量的植生復元

中村琢磨(横浜国大・院・環境情報),高原 光(京都府大・院・農),大野啓一(横浜国大・院・農)

花粉分析は湿原や湖沼の堆積物に含まれる化石花粉の種類や割合(花粉組成)をもとに過去の植生を復元する手法である。ところが,自然界における花粉の散布・堆積プロセスには,花粉分類群ごとの飛散性や生産量の違いなど多くの要因が関与しているため,花粉組成をそのまま植生に読みかえることはできない。したがって,植生変遷を読み解くためには,花粉組成と植生の関係を明らかにする必要がある。理論的なアプローチとして,Sugita(1993,1994)はPOLLSCAPEという花粉の散布・堆積のシミュレーションモデルを提案した。このモデルは,任意の地点を中心に同心円状に植生面積を積算し,群落の構成種ごとに異なる花粉生産量の違いや花粉粒の飛散性を加味することで,その地点に堆積する花粉量をシミュレートする。また,Sugita(1994)は花粉組成によって反映される植生の範囲を「花粉と植生量のあいだの相関がそれ以上よくならない距離,あるいは面積」と定義し,これを有効花粉飛来範囲と呼んだ。一方,北米の針広混交林帯に比べて,日本は地形の変化に富み多様な植生が狭い範囲に分布する。このことは花粉の飛散・堆積のプロセスをさらに複雑にし,花粉組成を解釈する際より一層の注意を必要とする。このため,モデルによって定量的に花粉組成と植生との関係を検討することは,花粉組成を客観的に解釈するために重要である。

そこで,本研究は青森県八甲田山においてPOLLSCAPEを用いて湿原に堆積する花粉量のシミュレーションを行った。また,主な花粉分類群を対象に八甲田山における有効花粉飛来範囲の推定を行った。その結果,田茂萢湿原,毛無岱湿原および黄瀬萢湿原などでは,有効花粉飛来範囲は少なくとも700mを越えることが示唆された。

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