| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-024

植物利用の民間伝承、記載に基づく植物群落の資源性評価

矢ヶ崎朋樹(IGES国際生態学セ)

はじめに:本研究は、植物群落の保全の一助となる評価手法の開発を目的とした方法論研究である。今回の発表では、民俗誌などを通して知られている植物利用の民間伝承・記載に着目し、資源性(役に立つ性質)に基づいた植物群落の評価事例について報告する。

対象と方法:福井県に生育する植物群落を評価対象とした。まず、民族生物学的調査(直接観察、聞き取り調査、アンケート調査、文献調査)に基づき、福井県内の植物および植物群落の利用に関わる民間伝承、記載(記述的データ)の収集を行った。次に、収集された植物利用に関する民間伝承、記載をデータベースにまとめた。このデータベースでは、植物利用に関する記述的データとともに、それらに関連する植物名(自然資源名)および資源特性(矢ヶ崎ほか、2006)がまとめられた。ここでいう資源特性(矢ヶ崎、2006)とは、役に立つ素材としての植物の性質を指し、「食材・薬材・飲料」、「装飾・服飾材」、「建築材」、「農具・民具」、「燃料材・動力源」、「肥料・飼料」、「染料・洗料」、「防災資源」、「学習教育資源」、「工芸材」、「鑑賞・遊具」、「祭事・神事用材」、「アメニティ資源」、「崇拝物・伝承物」、「記念物」の計15項目で表された。さらには、データベース上の記述的データのなかに含まれる植物(自然資源)を主要構成種とする福井県内の各種植生単位が抽出され、行タイトルに「植生単位」、列タイトルに「資源特性」がそれぞれ配置されたマトリックスを作成した。

結果および考察:主要構成種を鍵情報として、資源特性が“ある”と判定された植生単位には「1」を、“ない”場合には「0」の数値をマトリックスに格納した結果、資源特性に基づく植物群落の類型が可能となることが示唆された。この評価方法によって利用の側面から植物群落を総合的に評価する上での「たたき台」が構築可能になると考えられた。

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