| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-065

海進の影響を受けた石狩低地帯におけるオオバナノエンレイソウの集団分化に関する研究

*内藤弥生,佐藤志津子,大原雅(北大・院・環境科学)

オオバナノエンレイソウ(Trillium camschatcense)は、本州北部から北海道全域に分布する林床性多年生草本である。染色体変異ならびに酵素多型を用いた解析から、北海道の集団が遺伝的に3つの地域集団(東部、南部、北部)に分化していることが示されており、また、この遺伝的分化が各地域集団における花器形態および繁殖様式の分化と密接に関連していることが明らかにされている(Kurabayashi 1957; Ohara et al. 1996)。本研究では、過去の地史的背景で海進の影響を受けた石狩低地帯に注目し、現在、この地域に分布する集団群の特徴の把握と移入、定着のパターンの推定を行なうことを目的とした。

石狩低地帯に分布する15集団を含む北海道内の28集団を調査対象とし、花器形態(萼片、花弁、雄蕊、雌蕊)の測定とDNAマーカーを用いた遺伝解析を行なった。また、石狩低地帯内の5集団については交配実験(除雄処理、袋かけ処理)を行なった。その結果、石狩低地帯の集団は、自家和合性を示す北海道南部や北部の集団と同様に小型の花器を持ち、集団間に特徴的な差異は認められなかった。また、SSRマーカーを用いた解析から、石狩低地帯の15集団はいずれも遺伝的多様性は低く、交配実験を行なった5集団は自家和合性を示した。葉緑体DNAハプロタイプを解析し、集団の系統関係を推定したところ、石狩低地帯には北海道南部や北部の集団と同じハプロタイプを示す集団が混在することが明らかになった。以上のことより、石狩低地帯に分布する集団は、海進後に周囲のオオバナノエンレイソウ集団よりモザイク状に移入と定着が生じた可能性が示唆された。

日本生態学会