| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-067

10年間の個体モニタリングによるキンランの個体群動態の解析

寺井学(大林組技術研究所)

武蔵野台地上のコナラ二次林に生育するキンラン(Cephalanthera falcate)のモニタリングを10年間行った。1.4haの対象地は,高木層はコナラが優占し,亜高木層と低木層の被度は小さい。冬季の下刈りと落ち葉掻きを行っており,林床に優占するアズマネザサの草丈は10〜40cm程度である。キンランの位置を標識して記録し,2年目からは草丈と開花数を調査した。10年間でのべ450個体のキンランを確認し,123個体は10年間連続確認した。キンランの草丈は30cm付近の中央部が凸な階級分布を示した。未開花の割合は毎年20〜30%であり,開花したものは開花数4個の割合が高かった。個体数は増加傾向にあり,草丈と開花数も増加傾向にあった。しかし連続して出現するキンランの草丈と開花数は様々であり,連続出現するキンランの個体サイズの特徴は見いだせなかった。そこで個体群動態を明らかにするために,個体サイズの経年変化の解析を試みた。キンランの草丈をx軸,開花数をy軸にとった個体の分布図を参考にして,キンランの個体を「サイズ1」〜「サイズ8」の8階級に分類した。キンランは個体識別を行っているので,分類した各階級のキンランが翌年はどの階級になるかの確率を計算した。前年に確認のない場所でキンランを確認すること(出現)や,翌年に確認されなくなること(消失)もあり,その場合は「サイズ0」として,最終的に9階級のキンランのサイズ変化の行列式を算出した。結果,サイズの小さいキンランは,翌年も同サイズか1つ大きなサイズに,サイズの大きなキンランは,翌年同サイズか1つ小さいサイズになる傾向があった。出現,消失するキンランは,サイズの小さいものが多かった。しかし大きなサイズのものが,出現,消失することもあった。調査地においてキンランの個体群は,出現,消失を繰り返しながら個体数が維持されていることが分かった。

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