| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-090

標高によるミズナラ堅果成熟のフェノロジーの違い

中島亜美(東京農工大・農),小池伸介(東京農工大・院・連合農学),正木隆(森林総研),島田卓哉(森林総研東北),梶光一(東京農工大)

ツキノワグマの食物資源としてのミズナラ堅果の利用可能量の時間的・空間的な変化を明らかにするために栃木県と群馬県の県境に位置する足尾山塊において標高・季節による堅果のサイズ・成分(粗タンパク質・粗脂肪・全糖・タンニン)・残存率の変化を調べた。この研究の背景には、近年のツキノワグマの人里への出没問題がある。本研究ではミズナラ堅果の利用可能量の季節・標高による変化が秋のツキノワグマの移動パターンに影響を及ぼしている、という作業仮説をたて、その第一段階としてミズナラ堅果成熟のフェノロジーに着目して調査をおこなった。

調査は、2007年5月23日から10月24日にかけて標高約900・1200・1400mに2地点ずつ計6地点でおこなった。各地点においてサイズ測定・成分分析用の堅果採取をおこない(3個体)、また、樹上の堅果の残存率を直接観察と種子トラップによって調査した(1〜5個体)。調査は2週間間隔で行い、各時点での堅果のサイズ・成分・残存率から食物資源としての堅果の利用可能量(kJ)を推定した。

その結果、サイズ・成分・落果時期に関して標高による有意な差は見られなかった。むしろ、サイズなどは各標高内での個体間の変動の方が顕著であった。また個体間の落果時期のばらつきの大きさには標高間で差があり、標高1200・1400・900mの順に分散が大きいという結果になった。これらの結果、標高900mでは食物資源としての利用可能期間が短く(9月上旬〜10月下旬)、標高1200・1400mでは長かった(9月上旬〜11月中旬)。以上のことから、ミズナラ堅果をクマが樹上で利用できる期間は標高により異なり、ミズナラがよく結実した年においては利用可能期間の長い高標高域がクマにとって魅力のある場所であると考えられる。

日本生態学会