| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-099

葉のフェノロジーの異なるクリとミズナラの防御投資量の季節的変化

*今治安弥,清和研二 (東北大・院・農)

【はじめに】植物の開葉フェノロジーと防御戦略には密接な関係がある(Coley et al. 1985, 2005)。一般に葉の寿命の短い葉を次々と生産する順次開葉型の種は、葉の生産を優先させるため防御への初期投資量は低いのに対し、葉の寿命の長い一斉開葉型の種は葉を長期間維持するために防御への初期投資量は高いことが知られている。しかし、開葉が進むにつれ1シュート内の葉群構造は大きく変化していくが葉齢構造の違いが防御投資量の季節的変化に与える影響はこれまで明らかにされてこなかった。そこで本研究は一斉開葉型のミズナラと順次開葉型のクリの実生を対象に比較した。

【方法】落葉広葉樹二次林のギャップにクリとミズナラを播種した。2006年と2007年に実生の展葉・落葉数を記録、被食率を測定した。また両年の6月と8月に各種16個体を採取し、葉群を各葉齢に区分し葉の防御物質(縮合タンニン)とLMA(葉乾重/葉面積)を測定した。

【結果と考察】ミズナラは両年とも食害率は6月から8月にかけて減少した。縮合タンニンの濃度とLMAは大きく増加し、特に古い葉で高い値となった。当年の個体は6月の葉よりも8月で新たに出た葉の縮合タンニンの濃度、LMAが高かった。これらは葉が古くなるにつれて防御物質が蓄積され食害が抑制されたことに加え、個体の生育段階が進むと防御物質の濃度が高い葉を展開したことを示す。クリでは2006年の6月は食害が低かったが8月の新しく出た葉で最も高くなり、2007年は季節的変化がなかった。また両年とも縮合タンニンの濃度やLMAは季節的変化が小さかった。クリは新しい葉を連続的に生産するため防御への投資量は少ないままであることが示唆された。個体サイズの小さい実生段階は個体を構成する葉群構造での防御投資量の変化が適応度に大きく影響すると考えられる。

日本生態学会