| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-134

孵化後栄養卵がシロヘリツチカメムシ1齢幼虫にとって不可欠な理由

*馬場成実1, 弘中満太郎2, 細川貴弘3, 柳孝夫4, 稲富弘一4, 野間口眞太郎4, 日下部宜宏5, 河口豊5, 上野高敏1 (1九大院・生防研, 2浜松医大・生物, 3産総研, 4佐賀大・農, 5九大・農)

栄養卵とは子の初期栄養資源として親により生産される未受精卵であるが、亜社会性ツチカメムシ類では種毎に異なった栄養卵の産生様式がみられ、栄養卵の進化を考える上で興味深い。本研究では、シロヘリツチカメムシの栄養卵の特徴的な性質ついて詳細に調べた。

本種の雌親は、受精卵と共に産下する孵化前栄養卵と幼虫孵化後に産む孵化後栄養卵という、産下時期の異なる2タイプの栄養卵を産生していた。成分分析の結果、この2タイプの栄養卵は大きく異なるタンパク質組成を持つことが明らかとなった。驚くべきことに、本種幼虫は孵化後栄養卵に絶対的に依存しており、それを得られなかった幼虫は1齢期間中に死亡することが明らかになった。そこで死亡要因として考えられた、共生細菌伝播阻害,飢餓,必須栄養素阻欠乏について実験的に検証することで、孵化後栄養卵の生物学的機能を明らかにすることを試みた。

共生細菌伝播阻害仮説は、孵化後栄養卵がカメムシの生育にとって不可欠な腸内共生細菌を垂直伝播する機能を有し、細菌を得られなかった幼虫が死亡したと考えるものである。PCR法による細菌の検出の結果、孵化後栄養卵を供与されなかった幼虫も十分な共生細菌を保持していた。飢餓により死亡したと考える飢餓仮説の検証では、孵化後栄養卵の代替として寄主種子の胚乳をむき出しにして与えられた幼虫は、正常な栄養卵の供与を受けた場合と同等の生存率を維持した。よって本種の孵化後栄養卵は、寄主種子を摂食できない1齢幼虫にとっての不可欠な代替餌であることが強く示唆された。またこの実験により、孵化後栄養卵の特異的な栄養素が関与している可能性はないことが明らかになり、必須栄養素仮説は否定された。

日本生態学会