| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-159

ベニシジミの雌のハラスメント回避行動の日齢に伴う変化

井出純哉(京大院・農・昆虫生態)

多くの動物では雄と雌とで最適な交尾回数が異なるため、交尾をめぐる対立が生じている。通常、雄の最適交尾回数の方が多いので、雄は無理にでも交尾しようとする。雌はそのような雄によって間接的な利益(雄の子孫による繁殖成功)が得られるが、直接的な損失(不要な交尾やハラスメント)を被る恐れもある。そのため、雌は自分が交尾したい時としたくない時とで行動を変えて直接的な損失のみ回避するようになると予想される。

ベニシジミでは、雄が接近すると翅を閉じて身を隠すというハラスメント回避行動を雌が行うことが知られている。本種の雌は体内の卵が成熟するまでの羽化後二日間は交尾をしない。また、基本的に生涯に一度しか交尾をしない。従って、羽化後二日たってから交尾するまでの間のみハラスメント回避行動が行われていない可能性がある。そこで羽化後の日齢の分かっている雌を用いて、ハラスメント回避行動が行われるかどうかに雌の日齢や交尾経験が関係しているかどうか調べた。

調査はベニシジミの写真を印刷して作った紙製の模型をモーターで回転させ、翅を開いてとまっている雌に近づけて反応を見るという方法で行った。未交尾雌の翅を閉じる割合は羽化当日は七割ほどと高かったが急速に低下し、三日目以後は三割程度で安定した。既交尾雌では交尾直後は翅を閉じることが多かったが、その後日数がたつにつれて翅を閉じないことが多くなるように思われた(ただし統計学的に有意ではない)。

以上の結果は本種の雌が自分の状態に応じて雄の求愛を受ける頻度を調節していることを示している。また、交尾後の雌のハラスメント回避行動の頻度の変化は、雌が再交尾している可能性や雄が再交尾をさせないように雌を操作している可能性があることを示していると思われる。

日本生態学会