| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-162

逃げるか留まるか:捕食者の化学刺激に対するクロタマキビの反応

小島寿恵 (北大・水産), *和田 哲 (北大院・水産)

捕食者に遭遇した生物の反応は2つに大別できる。その場から逃走するか、あるいはその場で静止するかである。遭遇直後には動きをとめても、その後、逃げ出す生物も多い。このように、同一個体でも両方の反応が観察される生物では、さまざまな要因が、静止から逃走に移行するタイミングや逃走の程度に関与していると考えられる。

クロタマキビは岩礁域の潮間帯上部に生息する巻貝であり、捕食者であるカニに遭遇すると水面よりも上に這い出ることによって、捕食者を回避することが知られている。私たちは、予備実験によって、クロタマキビが捕食者に由来する化学刺激を感知したときに、静止反応を示した後で逃走に移行することを知った。そこで、本研究では、水槽の中央に小円を描き、小円のなかにクロタマキビを静置して10分間観察し、小円から外へ出る時間と頻度、および、水上に這い出るまでの時間と頻度に、以下の要因が与える影響を調べた;(1)化学刺激(潰したクロタマキビを入れた海水 (C条件)、イソガニを入れた海水 (P条件)、混合海水 (M条件)、コントロール)、(2)日周(朝、昼、夜)、(3)クロタマキビの体サイズ。

その結果、P条件の個体はコントロールと比べて小円内での静止時間が長く、10分間で円の外に出なかった個体も見られた。他の条件では、速やかに円の外に出た。一方、M条件の個体は、他の3条件に比べて短時間で水上に出ることが観察された。P条件の個体もまた、C条件やコントロールに比べると短時間で水上に這い出ていた。コントロールの個体は昼よりも夜の方が円内に長く静止していたが、P条件では、夜の方が円内に静止する時間が短かった。また、小型個体のほうが円内に静止する時間が短く、短時間で水上に出た。発表では、これらの反応が、捕食者の習性に対して適応的である可能性を論じる。

日本生態学会