| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-187

オスグマの憂鬱―繁殖期における雌雄のツキノワグマの直接観察事例―

*小坂井千夏(東京農工・院), 小池伸介(東京農工・院), 山崎晃司(茨城自然博), 梶光一(東京農工)

北半球に生息するクマ類の繁殖生態については、交尾期が初夏に見られること、妊娠中に着床遅延が起こること、冬眠中に出産することなどが知られている。ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus の交尾期の行動については、飼育条件下での交尾期が6月中旬―8月上旬であると考えられる(山本ら 1998)との報告がある以外は、野外における直接観察が難しいことなどから、ほとんど明らかにされていない。

演者らは栃木県日光市の足尾山地において野生のツキノワグマを捕獲し、首輪型のGPS(Global Positioning System)受信機を装着して行動を追跡してきた。調査地周辺の山地は過去に銅山活動の影響で荒廃し、現在でも開放的な景観を呈している場所が多いため、他地域では難しいツキノワグマの直接観察が可能である。

2007年7月13、16、17、18日の4日間にかけて、GPS首輪を装着した雌のツキノワグマ2頭の観察に成功し、合計で約425分の行動をビデオカメラで記録することができた。この観察期間中、上記の2頭の雌はそれぞれ未標識の個体と行動を共にしており、7月18日を除くと、雌と未標識個体の個体間の距離は5m以内である場合がほとんどであった。今回の観察からは、直接の交尾行動は観察されなかったものの、いずれのペアでも未標識個体(雄と思われる)が雌に対してcourtship行動と思われる行動をとることが多かった。一方で、雌は採食に費やす時間が多く、雌雄の行動内容には違いがみられた。

今回の報告はあくまで少ない事例であるが、交尾期のツキノワグマの行動特性を把握する上で役立つ知見となるだろう。

日本生態学会