| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-191

オガサワラオオコウモリの交尾行動とねぐらの構造

*杉田典正(立教大院・理),上田恵介(立教大・理)

葉を細工したテントや狭い穴をねぐらにするコウモリ類では、ねぐらの群れがハレム社会組織を示す種が多い。優占オスが他のオスからメスを防衛しやすいテントや穴は、一夫多妻の進化を促進する。オガサワラオオコウモリは、冬季に小笠原諸島父島のある決まった地域に150頭ほどの集団ねぐらを形成する。集団ねぐらは、オスのみの群れと多数のメスと少数のオスが含まれる群れとに分かれる。両グループともに、各個体がボール状に密着して休息するコウモリダンゴと呼ばれる行動が見られる。コウモリダンゴは、冬季の低温への適応であると考えられているが、本来低温への適応として形成されたこのコウモリダンゴが、オオコウモリの社会組織に重要な役割をもっていることがわかってきた(杉田 未発表)。そこで、本研究では、メス群のコウモリダンゴをオスが配偶行動に利用するのか、またコウモリダンゴに関するねぐら構造のオス・メス群れ間の違いを調べた。メス群に存在したオスの識別個体は、メスのコウモリダンゴに参加した。識別オスは観察期間中、ほぼ同じ枝に形成されるコウモリダンゴでメスとともに休息した。オスは、メスが休息中や毛づくろいをしているときに、交尾を試みた。識別オスに別のオスが接近すると、鳴き声か追跡することで追い払った。しかし、臭腺を枝にぬりつけてなわばりを形成する行動は、まったく見られなかった。これらの結果は、オスはコウモリダンゴとして凝集しているメスを直接他のオスから防衛していることを示唆する。コウモリダンゴ内の個体数は、オスよりメス群で多かった。近接するコウモリダンゴ間の距離は、オスよりメス群で短かった。集団ねぐらの中で、メス群はより密に集合していることがわかった。オスの交尾試みによる休息の妨害やダンゴ離脱よるエネルギー消費増加を防ぐために、メスは密集している可能性が示唆された。

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