| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-202

アメンボ卵寄生蜂の寄主探索戦略

片山 潤史(京都大学昆虫生態)

陸上で生息する植食生の昆虫に寄生する寄生蜂の寄生行動については多くの研究がなされているが、捕食者でかつ半水生のアメンボの卵に寄生する寄生蜂についての研究はほとんどない。アメンボの中でも最も普遍種であるナミアメンボAquarius paldum(以下、アメンボ)は水中で産卵し、その卵寄生蜂Tiphodytes sp.(以下、寄生蜂)も水中で寄生を行うことが知られている。

アメンボ卵(以下、卵)は約8日(25℃)で孵化するが、卵の日齢が経過すれば寄生蜂の寄生成功率は大きく低下する。また、本寄生蜂は単寄生性であり、一度寄生された卵には寄生しない。寄生蜂は、寄主卵の日齢及び寄生の有無は一度産卵管を挿入しないと確認できないことが分かっている。さらに、既寄生卵または日齢の経過した卵に遭遇すると、その直後の行動が変化することが示唆されている。そこで、既寄生または日齢の経過した卵に遭遇したとき、実際にどのように行動を変えているのかを調査した。まず寄生蜂に、産下された直後の卵と日齢が経過した卵とを与えて、寄生蜂の行動がどのように変化するのかを調べた。また、既寄生の卵と未寄生の卵を与えて、同様な観察を行った。産下直後の未寄生の卵に遭遇した寄生蜂は、卵の周辺を丹念に探索する行動が見られたが、日齢の経過した卵と既寄生の卵に遭遇した寄生蜂は、その卵から離れたところを探索することが確認された。アメンボは一回の産卵で十数卵をある程度まとめて産むため、寄生蜂にとって、寄生可能な卵に遭遇したら、その周辺には同様な卵が存在する可能性が高いことを意味している。一方、寄生に不適な卵に遭遇したら、その周辺には同様に不適な卵が存在する可能性が高いことを意味している。したがって、寄生蜂は寄生した卵が寄生可能かどうかによって、その直後の行動を変えているものと考えられた。

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