| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-277

列状間伐によるイヌワシの餌場創出効果:伐採地に対するノウサギの反応

*石間妙子(新潟大・院),大石麻美(新潟大・院),阿部聖哉(電力中央研究所),関島恒夫(新潟大・院)

ニホンイヌワシは絶滅危惧IB類に指定されている猛禽類で、近年、繁殖成功率の急速な低下が認められている。本種の繁殖失敗要因として、山間部の開発や化学汚染物質の蓄積などが挙げられているが、その中でも特に、鬱閉した針葉樹人工林の増加に伴う採餌環境の悪化が注目されつつある。そこで林野庁は、森林施業を通してイヌワシの餌場を創出するため、列状間伐による森林ギャップの創出を試みた。これまでの研究結果では、イヌワシの探餌行動に対する列状間伐の明瞭な効果は確認されていないものの、主要な餌動物であるトウホクノウサギを一時的に伐採列へ誘引する効果があることが明らかとなった。本研究では、イヌワシの餌場創出に加え、餌生物であるノウサギを伐採地へ効率的かつ持続的に誘引できる森林管理方法を提案するため、列状間伐や間伐後の下刈りといった森林管理施業が、光量と植物の量的および質的な変化を介してノウサギのハビタット選択に与えたボトムアップ効果を明らかにすることを目的とする。

林内環境である残置列、列状間伐1年後の新伐採列、下刈り前後の伐採列の3環境タイプにおいて、毎月、ノウサギの糞粒数と食痕数を計測し、環境タイプ別のノウサギの利用頻度を比較した。その結果、間伐1年後にあたる新伐採列のノウサギ利用頻度は8月から著しく増加したのに対し、残置列および伐採列ではノウサギの利用頻度に明瞭な季節変化や経年変化が認められなかった。さらに、列状間伐と下刈りがノウサギのハビタット選択に与えた影響を明らかにするため、光量の指標となるrPPFD、餌植物のバイオマス量および栄養含有量を植物のフェノロジーに合わせて評価した。本ポスター発表では、ノウサギの環境利用特性を考慮したイヌワシの餌場創出のための森林管理方法について提案したい。

日本生態学会