| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-292

湧水湿地の保全を目的とした森林伐採が湿原植生に与える影響

*福井 聡(神戸大・院・総合人間科学), 服部 保(兵庫県立大 自然・環境科学研究所),武田義明(神戸大・人間発達環境学)

日本の暖温帯に分布している湧水湿地では,近年,周辺の里山林の成長に伴う湿原の乾燥化や湿原植生の被陰によって遷移が進行し,湿原植生の衰退や湿原面積の縮小が顕在化してきている.そのため,湧水湿地を保全・復元するための管理手法の確立が求められている.

兵庫県南東部に位置する丸山湿原においても湿原植生の遷移・衰退が見られていたため,兵庫県は2006年2月に湿原とその周縁部の樹木をすべて伐採し,集水域についても森林伐採を行った.この管理による湿原植生への影響を明らかにするため,管理前(2005年)と管理2年後(2007年)にそれぞれ植物相調査,植生調査,植生図の作成を実施し,管理前後における植物相,種組成,種多様性,植生面積の変化について解析を行った.

植物相調査の結果,管理後にヌマガヤオーダーの構成種(以下,湿原生植物と呼ぶ)の増加が認められた.また,湿原植生は管理によって樹木が伐採された範囲に広がり,その面積は管理前と比較して約1.5倍に増加した.さらに,植生調査の結果から,管理後湿原植生が広がったところでは,新たな湿原生植物が出現し,調査区あたりの出現種数も増加した.また,管理以前から湿原植生が成立していたところでは出現種数の増加は認められなかったものの,湿原生植物の出現頻度は増加した.

丸山湿原で実施された管理は,湿原面積の拡大,湿原植生の回復,湿原生植物の増加をもたらし,種多様性や景観などの面において湿原の保全に効果的であったと言える.湧水湿地とその周辺における森林伐採は,湧水湿地を保全するのに有効な手段であると考えられた.

日本生態学会