| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-001

ケショウヤナギの低密度化が送粉様式に与える効果

*永光輝義(森林総研),星川健史,戸丸信弘(名古屋大)

断片化した生息地における個体密度の低下は、その生息地外からの配偶子の移入率を高め、その生息地内の交配個体数を減らすと予想される。低密度化が交配様式に与えるそのような効果を、河畔林に生育する雌雄異株の風媒の高木:ケショウヤナギSalix arbutifoliaを用いて調べた。北海道の十勝川水系において、ケショウヤナギ群落がある隣接河川(札内川と美星川)から4 km以上離れた帯広川では、一部の場所で密度が低下している。帯広川に生育する開花可能な大きさ(胸高直径5 cm以上)のすべての成木357個体についてその位置と性(結実の有無)を記録し、密度が異なる場所から8つの母樹を選び、これらの182種子を採取した。マイクロサテライト遺伝子型により、それらの種子の父親は、河川内に該当個体なし(78種子)、河川内の1個体(96)、河川内の複数個体(8)となった。これらの父性判定から、cryptic gene flowを含めた河川外からの花粉移入率を母樹ごとに求めると平均0.49(範囲:0.30-0.56)となり、母樹の周囲0.01-1.5 km以内の雄木数と有意な相関は認められなかった。一方、母樹ごとの河川内の有効父親数(Nielsen 2003)は平均4.63(範囲:1.0-12.2)となり、母樹の周囲0.25と0.4 km以内の雄木数との有意な正の相関(tau > 0.78)が見られた。これらの結果は、十勝川水系の河川におけるケショウヤナギ密度の低下によって、母樹ごとの河川内の交配個体数は減少するが、河川外の個体との交配確率はほとんど変化しないことを示唆する。また、約0.5の確率で生じる河川外交配は、断片化した生息地におけるケショウヤナギ小集団の遺伝的多様性の維持に寄与すると言える。

日本生態学会