| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-015

マルハナバチの弁別能力:花の形や蜜標のわずかな違いの弁別

*吉岡洋輔,大澤良,大橋一晴(筑波大),岩田洋佳,二宮正士(中央農研),小沼明弘(農環研)

ハナバチは採餌行動中に同じ植物種の個体を選択的に訪花することが知られている。この選択的な訪花行動は、効率よく採餌をするための戦略と考えられており、特定の植物の花の色、形態、香りなどの特徴を記憶する能力と、これら特徴に基づいて植物の違いを弁別する能力に依存している。ハナバチの選択的な訪花行動は花の形質変異が小さなアブラナ属の同種の植物個体群でもみられることが報告されているが、ハナバチが植物のどの形質を手掛かりに植物個体を弁別しているかは分かっていない。そこで本研究ではアブラナ属植物の花の形や蜜標の多様性に注目し、これら形質の違いに対するクロマルハナバチの弁別能力を調べた。まず、デジタルカメラで撮影したアブラナ属植物の花弁の画像から花の形と蜜標の変異に関わる特徴量を算出し、この特徴量に基づきコンピュータグラフィクスにより実際の花に良く近似した人工花を作成した。次に、木箱内に花の形や蜜標が異なる2種類の人工花(S、W)を複数配置し、Sにはスクロース溶液を、Wには水を入れ、クロマルハナバチに自由に訪花させた。数時間の学習の後に、空のSおよびWを1つずつ配置し、クロマルハナバチを巣から1個体ずつ放し、最初に訪花した人工花および最初に口吻を伸ばした人工花を記録した。その結果、花の形と蜜標の違いのいずれの場合も、最初に訪花した頻度ではSとWに有意な差が認められなかった。しかし、最初にSに訪花した個体の多くが直ぐに口吻を伸ばした一方で、Wに訪花した個体は口吻を伸ばすことなくSに移動し、そこで口吻を伸ばすという行動が非常に多く観察され、最初に口吻を伸ばす頻度にはSとWに有意な差が認められた。以上の結果から、クロマルハナバチは花に触れるか触れないかという極めて至近距離からならば、花の形や蜜標のわずかな違いを弁別する能力を持つことが示唆された。

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