| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-034

過去100年に渡る土地利用及び景観構造の変化が林縁部における草原生植物の多様性に及ぼす影響

*小柳知代(東大院),楠本良延(農環研),山本勝利(農環研),武内和彦(東大院)

土地利用や景観構造の変化は、長期にわたって生物相の分布に影響を与え続ける。これら過去の要素は、保全のターゲットを抽出する上で、重要な指標になりうると期待されている。近年、減少著しい草原生植物について、現在の種多様性が、数百年前の畑地化の影響を受けていることや、現在の連結性以上に過去の連結性と強い相関を示すことなどが明らかになってきた。しかし、これら二つの要素は個別に扱われており、両要素の相対的な重要性は明らかでない。そこで本研究では、関東地方東部の筑波稲敷台地を対象として、現在の草原生植物の多様性と明治期以降の土地利用や生育地の連結性との関係を検証することで、1)両要素について特に重要となる時期とその内容、2)土地利用履歴の異なる立地における連結性による影響の違いを明らかにすることを目的とした。

対象地には、かつて茅場や採草地が大面積に広がっていたものの、その大半が開発によって失われ、一部は放棄林や植林地へ変化している。これら残存樹林の道路沿い林縁部では、夏期に定期的な刈取り管理が行われており、草原的な環境が維持されている。2007年夏に植物社会学的植生調査を行い、林縁部に生育する種を記録した。また、明治期以降3時期の土地利用を空中写真から判読し、連結性指数を算出した。

一般化線形モデルによる解析の結果、草原生植物の出現種数は、過去の土地利用や連結性と有意な関係を示した。土地利用については、畑地化の履歴を持たない立地や畑地化後50年以上経過した立地で種数が多く、連結性については、明治期から戦後までの連結性と強い相関を示した。また、連結性による影響は、畑地化の履歴を持たない立地の周辺700m四方で明確に表れた。以上より、畑地化の履歴を持たず、戦後まで高い連結性を保っていた立地の保全上の重要性が示唆された。

日本生態学会