| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-067

サロベツ湿原におけるササ群落の拡大

*藤村善安(北大フィールド科学セ), 冨士田裕子(北大フィールド科学セ)

はじめに:北海道北部の日本海側に位置するサロベツ湿原では、近年ササ群落が高層湿原に侵入し分布を拡大しており、高層湿原植生を保全する観点から問題視されている。ササ群落の高層湿原への侵入・拡大は一様に起こっているのではなく、拡大顕著な地点から、ササ群落と高層湿原の境界線の位置に殆ど変化のない地点まであることが、最近約30年間のササ分布域を調べた結果から明らかにされている。本研究では、このササ群落の高層湿原への拡大が顕著な地点と、拡大がみられない地点を比較することで、ササ群落の高層湿原への侵入を可能にする要因を明らかにすることを試みた。

方法:拡大顕著な地点と拡大がみられない地点をそれぞれ3地点抽出し、ササ群落と高層湿原にまたがる調査ラインを設置した。各ライン上に4つの調査区を設け、水位・水質とササの形態・月毎の稈数を調べた。また拡大顕著な地点と拡大がみられない地点からそれぞれ4個体を選び、個葉の光合成速度を調べた。

結果と考察:拡大が顕著な地点では、拡大のみられない地点に比べて地下水の電気伝導度が高く、高層湿原部分では水位が低い傾向がみられた。地下水のpH, 酸化還元電位には違いがみられなかった。ササについてみると、光合成能には違いがみられず、稈の生存率・新たな稈を出す率が拡大顕著なラインでは大きかった。一方で、ササ群落と高層湿原との境界部分におけるササのサイズ(稈高・葉サイズなど)は拡大がみられない地点の方が大きかった。これらのことから、ササ群落拡大の可否を決する上で、個葉の光合成速度や稈サイズは大きな影響を及ぼさず、多くの稈を維持できるか否か、また地下茎を伸出可能か否かが重要であること、さらにそれらと水位・地下水の電気伝導度が関係していることが示唆された。

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