| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-070

亜高山性針葉樹実生のアロケーションパターン 〜不定根発生の生態学的意義

*土井裕介(京大・農), 森章(サイモンフレーザー大), 武田博清(京大・農)

多くの亜高山性針葉樹において、地面への幹埋没部から不定根の発生が確認されている。不定根の発生は、樹高や幹の肥大成長を抑制する。そのことは、樹齢の増加に伴う個体内の非同化器官比率の増加を和らげ、耐陰性と関与すると考えられている(Parent et al. 2006)。ところで、リターが積もりにくいため倒木上は、腐植の蓄積は地面よりも遅く浅いため、幹が埋没しにくいと考えられる。そのため、地面上の個体は倒木上よりも不定根を発生しにくいことが予想される。本研究は、定着基質(倒木、地面)の違いが亜高山性針葉樹実生の不定根発生やアロケーションパターンに与える影響を定量的に評価する。これにより不定根の発生と実生の耐陰性などの生態学的特性との関連を明らかにする。

御嶽山の亜高山帯林(標高2050m)において、5m×10mの調査区を設定した。調査区内において優占する針葉樹(オオシラビソ、シラビソ)の実生(樹高8cm−24cm)をサンプリングした。オオシラビソとシラビソでは、地面上実生の埋幹長/幹長、芽鱗痕数、不定根重/根重、地下部重は倒木上実生より大きかった。このことは、地上部サイズが基質間で同じでも、地面に定着している個体は、幹が腐植中に埋まりやすく、不定根を多く発生させており、樹齢も高いことを示す。本研究で見られた地面上実生の幹埋没や多くの不定根へのアロケーションは、両樹種の耐陰性に寄与するのかもしれない。本研究では、閉鎖した林冠下での両樹種実生の優占に、不定根の発生がどのように関わるのかについて議論する。

日本生態学会