| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-079

照葉樹林下層に生育するクスノキ科2種の萌芽更新特性の比較

*相川真一(森林総研),河原崎里子(情報シ融合セ),真鍋徹(北九州自然史博),島谷健一郎(統数研)

森林下層には、萌芽更新によって個体を維持する多くの低木種、あるいは高木種の稚樹が生育している。これらの下層木は、しばしば既存の幹の枯死や撹乱による損傷がなくても萌芽を発生させて複幹の樹形を形成することで、葉群配置の効率を高めていることが報告されている。しかしながら上層木においては、下層木と比べて萌芽発生による個体維持の利点と葉群配置効率を上昇させる利点の両立が難しい。萌芽によって個体維持を行うには、個体内に様々な生育段階の幹をもつことが必要であるが、幹サイズの大きな不均衡は葉群配置効率上昇の利点を縮小させるためである。上記の背景から、萌芽性の高木種は物質生産能力の上昇か、個体維持か、という萌芽戦略の選択を迫られていると考えられる。個体内の幹サイズ分布は個体の成長と共に変化しうるので、成長に伴う個体内の幹サイズ分布の変化を把握することが萌芽性の高木種の生活史全般にわたる戦略を理解するために必要とされる。

本研究では、長崎県対馬市龍良山の照葉樹天然林下層に優占し、よく萌芽を発生させるクスノキ科の亜高木2種、イヌガシとヤブニッケイについて様々な生育段階の個体のサイズおよび樹形を測定し、これを比較した。その結果、イヌガシは個体が小さいうちは多くの萌芽幹を持つが、成長と共に幹数が減少してやがて単幹になるのに対し、ヤブニッケイは成長と共に萌芽幹数を増加させていた。また、イヌガシはヤブニッケイと比べて自己被陰が大きく、個体がより小さい段階でその萌芽幹サイズに大きな優劣を生じさせるなど、両者の樹形構造は大きく異なっていた。このことから、同所的に生育する同じクスノキ科の萌芽性亜高木であってもその萌芽更新特性は大きく異なっており、それがニッチの分化をもたらし、共存の一助となっているものと考えられた。

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