| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-084

年輪判読から推定された釧路湿原南部におけるハンノキの定着と成長の過程

*石川幸男(専修大道短大・みどりの総合科学),矢部和夫(札幌市立大・デザイン)

釧路湿原においてはハンノキ林の拡大による湿原の変質と縮小が懸念されているものの、ハンノキの個体レベルでの定着過程は明らかではない。湿原南部の温根内地区と広里地区のハンノキ林において調査を行い、定着、成長の過程を明らかにした。また、ハンノキ林の今後の拡大可能性を知るために、ハンノキ林外のボッグやフェンにおいて実生稚樹の分布と樹齢等を調査した。

温根内の3ライン(A、BとC)と広里の1ライン(G)のハンノキ林においては、Aラインの個体が直立性の高い樹形であったのに対して、B、CおよびGラインでは高い萌芽性を示唆するブッシュ状の株が主体であった。林内で実生が見られたのは主にAラインで、個体数は少なかった。林分上部を構成するハンノキの樹齢はほぼ40年から数年生までと幅広かったが、実生由来と推察される幹に限れば、1985年に野火を被ったBとCラインで20年程度の個体があったことを除き約40年から30年であった。それより若い幹のほとんどは萌芽由来で定着年数は不明であった。ハンノキ林周辺では実生稚樹の分布はごく限られ、A、CおよびGラインの一部に少数の稚樹が分布していた。これらの稚樹の定着年を推定するために、稚樹のすべての幹の基部(根株の表面)の樹齢のほかに、株の内部における実生由来の幹について、根との移行部分付近の樹齢を観察したところ、大多数の個体の齢が近年10才以内であった。

以上より、徐々に進行していると考えられがちなハンノキの侵入は、少なくとも湿原南部においては、今から40年から30年ほど前に集中して起こったといえる。その後は林内では萌芽を繰り返すのみであり、分布範囲の拡大もさほど起こっていない。これらの結果をもとに、定着のきっかけとなった周辺の環境改変との関連も議論する。

日本生態学会