| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-121

掃除共生それとも寄生?安定同位体からのアプローチ

*奥田昇(京大・生態研),福森香代子(愛媛大・CMES),上原子亜紀(愛媛大・理),近末昌嗣(愛媛大・理),仲澤剛史(京大・生態研),柳澤康信(愛媛大・理工)

掃除共生は様々な分類群で独立に進化した異種共同体であり、その関係は一般に相利共生的と考えられている。クリーナーはクライアントの体表につく寄生虫を食べる一方、クライアントは寄生虫を除去してもらうことによって利益を得る。最も有名な例は、海洋に生息するホンソメワケベラ(クリーナー)と礁魚(クライアント)の間に見られる掃除共生である。しかし、ホンソメワケベラは寄生虫だけでなくクライアントの体表組織である鱗や粘液を食べることから、この関係が相利共生であるという見解に意義を唱える研究者も少なくない。クリーナーとクライアントそれぞれにとっての利益・コストを論じるには、ホンソメワケベラが寄生虫とクライアントの体表組織をどのような割合で食べるか知る必要がある。しかし、粘液のように無定形で消化しやすい餌の摂食量を行動観察や胃内容物の分析によって測定するのは容易でない。このような問題点を解消するために、我々は、安定同位体分析を活用した。この分析手法は、動物がある期間内に同化した正味の餌量を定量的に評価できるという利点を持つ。実際に、安定同位体分析によってホンソメワケベラの食性を調べたところ、寄生虫はほとんど食べず、専らクライアントの粘液を食べていることが明らかとなった。この結果は、少なくとも我々の調査地において、ホンソメワケベラが寄生虫と同じ生態ニッチを占めている、すなわち、掃除共生は相利共生的というよりむしろ寄生的であることを示唆する。最後に、この掃除共生が条件付き相利共生となる可能性について考察する。

日本生態学会