| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-128

安定同位体を用いた魚類の生息地ネットワークの解明:琵琶湖と周辺内湖を例に

*柴田淳也,大石麻美子,山口真奈,合田幸子,奥田昇(京大生態研セ)

生物の移動による生息地間のつながり(生息地ネットワーク)の解明は,生物群集の空間構造や動態の理解において重要な知見を与える.しかし,従来的な標識個体の追跡・再捕獲による生物の移動の調査では、労力が多大で多数の調査地での研究が困難であった.そこで,我々は生物による生息地間の移動履歴推定の有力なツールとして安定同位体分析に着目した。生物の安定同位体比は生息地の物理化学的な特性を反映するため、対象生物の移動経路を推定する天然標識としての利用が期待できる.本研究では琵琶湖と周辺内湖に生息する魚類(フナ類・外来魚2種)を対象とした.従来,琵琶湖とその周囲に点在する衛星湖「内湖」は水路でつながり、魚類は繁殖や摂餌のためにそれらを往来し個体群を維持してきた.しかし,湖岸改修など、琵琶湖と内湖間の生息地ネットワークの分断・単純化によって、在来魚個体群の存続可能性に与える影響が懸念されている.その一方で,外来魚による琵琶湖−内湖間移動が,在来魚の繁殖適地としての内湖の好適性を低下させる可能性も指摘されている.そのため、琵琶湖−内湖間の生息地ネットワークの実態解明は琵琶湖の在来魚保全において重要な課題となっている.そこで、我々は琵琶湖および内湖の生息地を炭素・窒素安定同位体比で類型化することによって、魚類の生息地移動の推定を試みた。

安定同位体分析の結果,内湖は琵琶湖に比べ生産基盤の炭素安定同位体比が有意に低く,両生息地を識別する有効な指標となることが明らかとなった.本発表ではさらに,安定同位体分析を用いて、琵琶湖全域における在来魚および外来魚による琵琶湖-内湖間の移出入頻度を比較し、水路や内湖内の環境条件が両者の生息地間移動に及ぼす影響について考察する.

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