| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-158

空間スケール別に見た樹液食昆虫群集の構造

*吉本治一郎,西田隆義(京大院・農・昆虫生態)

群集は様々な空間的変動を示し、規定要因も空間スケールによって異なる場合が多い。樹液に集まる昆虫群集においても、パッチ(株上の個々の滲出部位)、滲出株、調査地(局所レベル)という階層的な空間スケールが存在する。そこで、本研究ではこれらのスケールごとに群集を記述し、得られたパターンをスケール間で比較することで、群集構造の変動と規定要因の解明を試みた。

パッチ・株における種の分布を調べたところ、パッチレベルの出現率が高い種は株レベルの出現率も高く、個体数の多い種ほどパッチ上に広く分布する傾向が示された。このことから、これらのスケールでは大半の種は移動の制限をほとんど受けないことが示唆された。また、調査地(2サイト)間では種数と種構成はどちらも類似していた。一方、群集構造はパッチ・株・調査地のいずれの間でも大きく異なっていた。局所群集の季節変動については、種数はどちらの調査地でも8月をピークとする一山型の変動を示し、群集構造は5〜9月と10〜12月の間でのみ顕著に異なった。さらに、パッチ・株・観察日の三つのスケールで多様性分割を行ったところ、観察日間による種構成の違いが株間やパッチ間による違いよりも大きいことが示された。

以上より、種構成は季節変動の方が空間的変動よりも大きく、このような種の時間的な入れ替わりが局所群集の種多様性の上昇に寄与していることが示唆された。一方、群集構造は空間的変動の方が大きいことが明らかになった。これは構成種の個体数がどのスケールにおいても大きく変動することが原因であり、この変動には資源量や林内環境、調査地周辺の植生などの要因が作用したと推察された。

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